福祉の掲示板
誰一人取り残さない社会を目指してー福祉に関わる仕事や活動をする方向けに、インタビュー記事や、仲間を募集する掲示板を掲載しています。福祉に関わる方々に、新しい一歩や気づきの『きっかけ』をお届けできますように。
Jobインタビュー

『魚は海で、鳥は空で、人は社会で生きる。障害をもつ子も社会で生きる。その力を育むおでかけを。』加藤啓吾さん/Jobインタビュー vol.9

今回インタビューさせていただいたのは、『すべての子どもたちにおでかけという日常を』を掲げる一般社団法人おでかけ療育協会の代表/加藤啓吾さんです。加藤さんは、療育を必要とする子どもたちの将来に「このままでは、この子たちが大人になったら、引きこもるしかなくなってしまう」と警鐘を鳴らしています。子どもたちが社会で生きていくための力を育むためには、おでかけが必要だと話す加藤さん。加藤さん自身について、加藤さんの感じる社会課題についてなど、お話を聞かせていただきました。

加藤さんと福祉の出会いーお母様の介護と自身の発病

管理人

加藤さん、本日はよろしくお願いします!
加藤さんは、昨年、一般社団法人おでかけ療育協会を立ち上げたとのことですが、ずっと療育関連のお仕事をされていたのですか?

加藤さん

いえいえ、私は初めから福祉の業界にいたわけではないんですよ。

当時に遡りますと、私が26歳の時に、母が交通事故で24時間365日の介護が必要な状態になってしまったんですね。介護でもともと私が患っていた強迫性障害が悪化してしまった。薬物の大量服薬、車を猛スピードで走行など、自殺未遂を繰り返し、とうとう30歳の頃に入院することになったんです。

当時は人権も何もない入院生活でした。病を癒すために入院しているのに、それどころじゃない。入院してしばらくしてから「あなたの病気は治ることはない。付き合っていくしかない。退院して、外に出なさい。」と家に帰してもらえたんですね。ホッとしましたよ。

退院してからは、生きていくために仕事をしようと、職探しを始めました。母の介護経験を生かしたいと思って、ヘルパー2級を取得し、通える老人ホームを手当たり次第、バイクで回って働き口を探しました。「雇ってもらませんか?」って。

管理人

直接、自身の足で職探しとは、すごいバイタリティですね!

加藤さん

そこで縁あって、32歳の時に初めて、福祉の世界に入りました。特別養護老人ホームで働くことになったんです。しかし、当時のその特別養護老人ホームはひどい環境でした。水分補給タイムにポータブルトイレの上にお茶を置いていったり、お風呂は大根を洗うような流れ作業。利用者さんと話をしていようものなら、「そんな暇あったら仕事して」と怒られましたからね。

そんな環境で働いているうちに、鬱が出てきてしまったんですね。辞めることになってしまいました。

その後も、福祉の仕事は諦めたくなかったので、今度は高齢者向けのデイサービスにチャレンジしようと、またバイクでデイサービスを回りました。デイサービスの仕事は、とっても楽しくて、一生懸命働きましたよ。でもね、一生懸命やりすぎてしまったんですね。燃え尽きてしまったんです。3ヶ月寝込んでしまった。やっぱり辞めることになってしまったんですね。

管理人

そうだったのですね…。

自閉症の子たちとの出会いー私と紙一重の自閉症

加藤さん

仕事を辞めてから、ボランティアを始めました。こどもが好きだったこともあり、月に1回、脳性麻痺の子のお手伝いに通っていたんです。そこのお母さんから「障害者自立支援法もできるし、広島でも障害児への訪問介護が始まるんですよ。加藤さんぜひどうですか?」と声をかけてもらったんですよ。

すぐに障害児の訪問介護で働くことになりました。自閉症の子たちのことを知りたくて、本を買って一生懸命学んで挑みましたよ。初めて会う重度の自閉症の子たちを見て、可愛いと思ったんです。

同じことを繰り返す、自虐行為をしてしまうなど、自分の強迫性障害とそっくりだと思ったんです。私には子どもがいませんので、自閉症の子どものことはよくわかります、なんて言えないですけど、とにかく自分と紙一重の子どもたちが可愛く思えたんですね。

管理人

ご自身と重なる部分があったんですね。

加藤さん

働いてしばらくして、「加藤さんと歩いていると、子どもが楽しそう」という声もあり、たくさん指名をもらうようになりました。主任や、職員の教育担当も任されるようにまでなりました。また、一生懸命やってしまったんですね。病気がでてしまったんです。

病気のことをカミングアウトして、パートに戻してくれと施設にお願いしましたが、結果的に病気が原因で辞めることになってしまいました。今までは、病気のことで何か言われても、落ち込むばかりでしたが、この時ばかりは「何いっとんじゃ!みてろよ!」と思いましたね。

管理人

このお仕事に触れて、こどもたちに触れて、加藤さんが変わったのかもしれませんね!

加藤さん

すぐに自分で、移動支援事業と重度訪問介護事業を立ち上げました。子どもたちには、「私との時間は、多少周りに迷惑をかけてもいいから、思う存分遊びなさい」「でも、命に関わること、大人になったら犯罪になってしまうことは全力で止めるし、全力で怒るよ」というスタンスでした。この子達が、大事なことを学べるおでかけを大事にしていましたね。

でも、移動支援事業への締め付けが行われてしまって、障害を持った未就学児の移動支援の移動の幅が制限されたり、公共交通機関を使うことを制限されたりと、制度が変わってしまった。地元の新聞社さんや議員さん、障害者団体のみんなと反対運動もしましたが、勝てなかったんですね。

1年くらい戦いましたが、次第に事業が成り立たなくなり、移動支援事業は畳むことになりました。

管理人

子どもの移動の自由、行動の自由を奪うような制度の変革に驚きを隠せません。

おでかけしよう!ー毎日おでかけ放課後デイの立ち上げ

加藤さん

そこから、放課後等デイサービスを立ち上げて、今は細々とやっています。

うちの放課後デイは、とにかく「毎日おでかけ」。近くの公園やフードコートでも、ちょっと遠出して動物園でも、事業所を出て、お出かけしています。区の屋内プールには、ほぼ毎週おでかけしています。

外に出たら、ハプニングが待っています。セルフサービスのうどんのお店で、一回手をつけちゃったら「触ったら買わなきゃいけないよ」、レジでどんなに人が並んでいても「列で待たなくちゃいけないよ」と勉強できることばかり。

たまに、「公園に出かけるだけでしょ?」なんて言われることもありますが、事業所を一歩出れば、車は走っている、信号機がある、大事なことを学べる”おでかけ”なんです。

管理人

昔、ある人から、自ら移動した距離だけ学びがあると、聞いたことがあります。
事業所から一歩出ることで、たくさん学ぶことがありますよね!

加藤さん

そうなんです。命に関わる基礎の基礎のこと。信号で止まること、大人になったら犯罪になってしまうこと、それを学ぶためにおでかけするんです。

この子たちが学校を出た後に社会で暮らすためにー協会の立ち上げ

加藤さん

すごく危機感を感じているんです。

今の子たちは、家の近くまで養護学校のバスが迎えにきて、学校が終わったら、放課後等デイサービスの車が学校の門まで迎えにきて、夕方は放課後等デイサービスの車が、家の目の前まで送ってくれる。

言い方は悪いけど、ベルトコンベア状態です。子どもたちは、外を知らない。
もちろん、たまにはおでかけしたり、外に出なくても誕生日会をしたり、工作などはしているのだと思う。

でも、この子たちが大きくなったらどうなるの?ヘルパーさん見つからなかったら、卒業して昼間見てくれる人たちがいなくなったらどうするのか。

就労継続※1がある、生活介護※2もある。
でも、これだけの人手不足の時代。地域によっては、就労継続も生活介護も待ちが出るほど満員のところもある。

高齢の親御さんが生活を見なければならないこともあるんです。でも、体が大きくなった子どもを、高齢の親御さんが、どれだけ面倒見れますか。このままでは、今の療育を受けている子どもたちは、引きこもるしかなくなってしまうかもしれないんですよ。

※1…障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス
※2…障害者総合支援法における日中活動の支援サービス

管理人

本当にその通りですね。これから人手不足はますます深刻になりますよね。
今ある制度も、今後どうなるか、何も保証はありませんよね。

加藤さん

そう。命に関わることを、教えてあげないといけない。

まずは、子どもたちの衝動性を知る必要があります。
どうすれば、あのバス停までいける。どうすれば、自分だけでこれだけのことができる。どうすれば、人に手は出さずに過ごせる。どうすれば、脱走しないで、外に出たい時に出たいと伝えることができる。

小さい時から、一人一人の衝動性を理解して、その衝動性をコントロールする方法を子供といっしょに探っていく必要があるんです。コツコツとやっていかなければならないんです。

一人一人の衝動性を理解して、小さい頃から行ける場所、できることを増やしておくことが重要なんです。

管理人

できることが増える、行ける場所が増える、どんな人でも喜びにもつながると思います。

加藤さん

人は社会で生きる。
魚は海で、鳥は空で。人は社会で生きる。福祉の中ではない。

どんなに障害があっても、人は社会で生きていかなければならないんです。

まだ、日本は「人に迷惑をかけてはいけない」と育てられますよね。諸外国は、「人に迷惑をかけるのが人間だから、人に優しく」と育てられます。この慣習も問題ですよね。

管理人

そうですよね。人に迷惑をかけずに生きるなんて、大人になっても無理ですよね。

加藤さん

そこで、親御さんにもおでかけの勇気を持って欲しいと思い協会を立ち上げることにしたんです。おでかけする時に、身につけてもらえるように、グッズも作りました。

これを身につけて、親御さんのおでかけの勇気が出るように。
これを身につけて、子どもが〇〇マンに変身して無事におでかけができるように。
これを身につけて、おでかけする子どもたちを応援しているよ!というメッセージが発信できるように。
これを身につけて、堂々と生きようじゃないか!

そんな思いを込めて作りました。

管理人

私も利用させていただいています!

加藤さん

このおでかけ療育マークは、東京都が商標を持っているヘルプマークが入っています。東京都に許可をもらって作りました。

ヘルプマークの普及とともに、おでかけ療育マークも知ってもらえるようにしたいですね!

このくつのマークにも、こだわっているんですよ。カラフルなパズル柄のくつが、おでかけを後押ししてくれるんですよ。

今後の活動とメッセージ

管理人

今後は、どんな活動をしていきたいと思っているのですか?

加藤さん

おでかけの輪が広がって欲しいですね!

本当に、世間で障害を持つ子を見る機会が本当にないですよね。もっと障害を持つ人が出ていかないと、知ってもらえない。それが結果的に、どんどん偏見に繋がっていく、問題が深くなっていく。

私も現役でいられるのもあと10年くらいです。一過性のトレンドでなく、コツコツみんなに知ってもらえるような活動をしていきたいですね。コロナが終わったら、おでかけ漫才などを企画して、出ていきたいと思っているんですよ!

僕も障害を持っている。だからこそ、どんどん出ていきたいですね。

管理人

最後に読んでいる皆さんにメッセージをお願いします!

加藤さん

制度だけで、世の中を変えていくっていうのは、正直無理に近しいです。
地域の人、周りの人をどんどん巻き込んでいかないといけないと思うんです。

子どもたちの未来にために、おでかけ療育の輪が広がって欲しいですし、おでかけ療育を応援して欲しいと思っています。

私たちが当たり前のように生活し、おでかけするように、障害をもつ子どもたちが当たり前のように生活し、おでかけすることを、地域の方や周りの方に暖かく受け入れて欲しいと思っています。

管理人

貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

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