福祉の掲示板
誰一人取り残さない社会を目指してー福祉に関わる仕事や活動をする方向けに、インタビュー記事や、仲間を募集する掲示板を掲載しています。福祉に関わる方々に、新しい一歩や気づきの『きっかけ』をお届けできますように。
Jobインタビュー

『目指すのは、QOLや稼働率の向上ではない。みんなの幸せだ。』曽木達さん/Jobインタビュー vol.5

今回は、介護領域に関わる仲間が集うkaigo×kaigo ツナガルでイベントを開催する曽木達さんです。目指すべきは『みんなの幸せ』と、さらっと言い切る姿がとても印象的な曽木さん。イベントを開催した経緯、イベント開催後の変化など、曽木さんの思いとともにお話をお伺いしました。

介護の職場で感じた違和感

管理人

はじめまして!今日は、よろしくお願いいたします。
早速ですが、曽木さんが開催するkaigo×kaigo ツナガルのイベントのお話や、開催に至った経緯などをお聞かせください!曽木さんは、介護のお仕事は長いのですか?

曽木さん

そうですね、ケアハウスから特別養護老人ホームなど、いくつか事業所を経験して、トータル13年くらいになります。『毎日残業当たり前』、『1人で10人の利用者さんの食事介助は日常茶飯事』、『「危ないから動かないでください、立たないでください」は利用者さんのため』、そんな職場もたくさん見てきました。はじめは、これが当たり前だと私も思い込んでいました。

管理人

そうだったんですね。曽木さんはその現状をどう感じていたのですか?

曽木さん

実際に職員も足りないし時間もないし、仕方がないんだと思う気持ちもありました。しかし、あまりにひどい介護や職場状況を放っておけば、人はさらに辞めてしまいますので、事業所や法人の管理職に、改善を求めて訴えたこともありました。
しかし、なかなか聞き入れてはもらえませんでした。「であれば、利用者さんの家族にあたる人たちにこの現状を届けて、外堀から訴えることで少しでも変えていけないか」と考え始めたんです。「あなたの家族は、朝5時に起こされて食堂に連れて行かれ、そこから食堂でずっと待たされて、実際に朝食を摂るのは7時半から」そんな現状を、ご存知ですか?と。まず手始めに、Twitterで介護現場の状況を呟くことから始めてみました。 しかし、すぐに、この方法は効果が薄いかもしれないと思いました。 

Twitterで介護の仕事に関わる人と繋がるのは簡単でしたが、利用者さんの家族に当たる人たちと繋がるのは、なかなか難しいことだったからです。これでは、当初の目的は果たせないと思いました。それでも介護の発信を始めて意見交換したことで、多くの学びがありました。 

KAIGO LEADERSとの出会い

管理人

どんな学びがあったのですか?教えてください!

曽木さん

ひとつは「超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティである、KAIGO LEADERS」との出会いです。KAIGO LEADERSの記事で他県の介護事業所の取り組みを紹介している記事を読んで、とても驚きました。そこでは、利用者さんに「座っていてください」等の抑制的な声をかけず、本人の主体性を本当に尊重しているケアをしていたのです。当時の私は、介護施設なんてどこも自分の経験してきた職場と同じようなものだと思い込んでいたのですが、それが覆されました。利用者さんはもちろん、そこに働く人、そして地域の人をも笑顔にする施設が本当に存在することを初めて知ったのですね。 

そして、その事業所を知ったときに「こんなの綺麗事だ」とは思わなかったのです。素直に素敵だと思いました。その一方で、「自分には遠い話かもしれない」「自分の施設では無理だ」とも感じました。 しかし、Twitterで他にもそういった事業所があることを知るにつれて、次第に「何もできないわけじゃないかもしれない」と思い始めたのです。

そこで、KAIGO LEADERSの説明会に参加することに決めました。その時は、20人くらい参加していたと記憶しています。それまでにTwitterで介護職の愚痴やネガティブな発言を本当に多く見てきていたので、前向きな介護の説明会のために、労力と交通費をかけて会場まで来ている人がこんなに多くいることに、まず素直にびっくりしました。そして、その経験は刺激的でしたし、学びにもなりました。 

kaigo×kaigo ツナガルで『参加者主役』のイベント開催

管理人

そうだったんですね!KAIGO LEADERSという場があったにも関わらず、kaigo×kaigo ツナガルを始めたのは何故ですか?

曽木さん

2つの問いから、自分で介護のイベントを立ち上げることを考えました。ひとつは、「もっと参加費が低い介護のイベントを開催できたら、参加したいという人たちもいるのではないか」という問い。もうひとつは、ゲストを呼んで、その方達の話を聞くのはもちろん素晴らしいことだけれども、「もっと参加者本人たちが話したいのではないか」という問いでした。試しにTwitterで呟いてみると、とても反応が良かったのですね。

その後よく考えた末に、まず自分の団体である「kaigo×kaigo ツナガル」を立ち上げて、その団体の主催で介護のイベントを開催することにしました。参加費は1000円に設定しました。 実際のイベントには30人以上の参加があり、みなさん本当によく喋って「ちょっと聞いてくださーい」と声を張り上げても、止まらないくらいでした(笑)。

初回のイベントが終了した後、「これくらいの価格帯ならまた来たい。」という嬉しい声も多くあり、 継続して開催し、計4回開催しました。新宿御苑の芝生の上で開催したこともあります。そして5回目を開催しよう、というところで新型コロナウイルスが流行してしまったんです。 

管理人

コロナ禍ですと、特に介護職の方々は気を遣って参加しにくい状況ですよね。オンラインなどは考えなかったんですか?

曽木さん

そうですね、kaigo×kaigo ツナガルのイベント内でも、職場でも、とにかく新型コロナに感染してはならないという状況で、オフラインでの開催は考えられませんでした。メンバーとオンラ イン開催の検討はしましたが、オフライン開催にしたときに「kaigo×kaigo ツナガル」としての価値をつくる方法が思いつかず、「オフラインの開催より劣るものを開催するなら、やめよう」ということになりました。

もちろん、オンラインでも色々とやり方があることはわかりますが、イベント後も参加者に繋がっていってほしいというコンセプトをもつ中で、オンラインで「じゃLINE交換しましょうよ!」とはなかなかなりにくいという現実もあり。やっぱり開催するなら、参加して良かったと思ってもらえるものを作りたいですから。新型コロナが落ち着いたら、また開催できたらと考えています。

管理人

そうだったんですね!オンラインも良し悪しありますもんね…。

イベントを開催してみて、見えてきた変化などあれば教えてください!

曽木さん

第1回目のイベントを開催したときから、「職場の人でもいいし、家族でもいい、kaigo×kaigo ツナガルのように対話の場を作って欲しい」」と伝えていたのですね。そうしたら、イベントに参加したことのある人たちが、実践してくれているのですよ。
自分たちで勉強会したり、ポジティブな介護の話をしてくれているんです。

管理人

参加してくれた方々の変化が見えたなんて、素敵ですね!人を突き動かすような、原動力のあるイベントだったのだと思います。

Twitterがきっかけで、所長として転職 

管理人

曽木さんの職場などのプライベートでは変化はありましたか?

曽木さん

職場では、違和感を感じることに対して、過去と同様に、上司や経営陣に改善を訴えてきました。しかし、その度に面倒な『問題児』扱いをされていました。現場から突き上げで組織を変えていくことに難しさを感じつつ、変えるには自分が昇進しないといけない、ある程度は我慢しないと…。そう思いつつ過ごしていたある時、このコロナ禍でどうしても譲れないことが出てきてしまいました。もちろん訴えましたが、やはり面倒な『問題児』として対応され、さらに上司との関係は悪化してしまいました。もう辞めるしかないのかなと考え始めました。

そんな時に、イベントで関わったり、Twitterで自分の発信を見てくれたりしていた今の職場の社長と、zoomで話す機会がありました。そのときに施設での現状を伝えたところ「うちで働けばいいんじゃない?」と、声をかけてもらったのです。なんと所長としてのお誘いでした。今まで所長という仕事をしたことはありませんでしたが、以前から憧れ、目標にしていた事業所のひとつだったこともあり、引き受けさせていただきました。今の職場で所長となって、7ヶ月ほどになりますが、働き方の目標であった事業所で、所長として働けることに感謝しつつ、多くの新しい経験をさせてもらっています。 

大切にしていることーみんなの幸せのために

管理人

なんと、スカウトされたのですね!今のお仕事はどうですか?どんなことを大切にしているんですか?

曽木さん

kaigo×kaigo ツナガル代表、サービス付き高齢者向け住宅所長、KAIGO LEADERSスタッフと、三足の草鞋を履いていますが、全部やっていること、向かっていることは同じで、単純に人の幸せを目指しています。自分ももちろん幸せに生きたいし、関わるみんなや、遠くの誰かだって、幸せに生きてほしい。純粋にそう思っています。QOLの向上のためだ、稼働率の向上のためだ、って言いますけど、まず「幸せのため」って素直に言った方がいい。特に福祉の仕事は、人の暮らしに密接に関わる分、明確に幸せを目指したほうが、わかりやすいのです。

ケアプランを例えにすると、介護する側は、どうしても右側から決めてしまう。介護の方法から決めてしまうことが多いのですね。だから本人の意向を聞かずに「危ないから動かないでください」「オムツ外さないでください」となってしまう。でも、やっぱり左側からきちんと決めるべきで。本人の希望や、本人の幸せから考えるべきなのですね。 これって、どんな仕事でも本質は同じだと思っています。幸せのための仕事だと思うのです。ドラッカーも 『事業の目的は顧客の創出(その商品で幸せになる人を増やすこと)』と言っています。 

「幸せのため」と明確に提示しておけば、そして、それが職場にも浸透していれば、目的を見失ってしまったり、手段ばかりに捉われたりするようなことがなくなると思うのです。「幸せのため」に働いていると、きちんと意識共有することで、結果的にみんなが幸せになるのだと思います。そのことに気づいて欲しい。そのことに気づいているなら、素直に「幸せのため」に働いてみて欲しい。幸せと言うと綺麗事とか理想論とか言われますが、じゃあ介護は厳しいのが現実論だと言っていれば何か上手くいくのかと言えば、何も上手くいかないのです。大切なのは「幸せに向かうことを明確に共有した上で、きちんとマネジメントして成果を出していく」ことです。人がいない、時間がないと言い続けても何も変わりません。

仕事の時間でも、みんな幸せになって欲しい。これは綺麗事ではなくて、仕事の時間を良い時間にするための、限りないくらいの現実論です。 

管理人

本当にそうですね。私自身がなぜ今こうしているかって、やっぱり結果的には、自分自身も幸せになりたいし、幸せな福祉に関わる人たちを増やしたいからです。曽木さんとお話しして、改めて考えるきっかけを頂戴しました!

みなさんにメッセージー誰でも幸せのために働ける

管理人

最後に読者の皆さんに一言いただけますか?

曽木さん

「幸せのため」って、特別すごいことでも何でもないのです。曽木さんだからできるんでしょ?所長だからでしょ?すごい能力持ってるからでしょ?と言われることがありますが、そんなことはありません。誰だってできます。もちろん、これを読んでくれている人も。素直に「幸せのため」に働いてみてください。この記事が、そのきっかけになってくれたら嬉しいですね。

管理人

とても貴重なお話ありがとうございました!

曽木さんのTwitterはこちら!
twitter

記事で紹介があったものはこちら!
kaigo×kaigo ツナガル KAIGO LEDERS

…文中の引用について…

事業の目的は顧客を創造することである。

「現代の経営」 P.F.ドラッカー